2つの脳(心)

「人間は2つの脳を持っている」。

これを知って、ずっとモヤモヤしていたものがスッキリしました。
それまでは、「人として生まれた限り、利他の心はとても大事」。ということは「利己的な心0%、利他的な心100%を目指せということかなぁ?。出来るのかなぁ?。いくらなんでも・・・」と思っていました。

「人間は2つの脳を持っている」。
ご存じでない方は、ぜひこのページをご覧ください。おすすめします!。

納得のイメージ

脳を育てる動物飼育 唐木英明 (東京大学名誉教授・日本学術会議会員・農学博士)

誰でもが持つ本能の脳「自分が生き残るための脳」であり、そのために「自分だけよければいい」という利己的な行動をさせる。自分の命を守るため、あるいは欲しいものを手に入れるために、ときには暴力を振るう。そして男性ホルモンは暴力傾向を強くする。また、感情を持ち、競争心や闘争心や向上心を持つのも本能の脳があるからである。この脳がないと生きてゆけないので、生まれたときにはすでにこの脳は働いている。生まれたての子供が大声で泣くことで空腹や苦痛を訴えるのは、この脳の働きである。

人間はもう一つの脳を持っている。それが理性の脳であり、社会の中で生きていくための脳である。他人の痛みを感じて、自分の欲望を抑えなければ社会は成立しない。そして、それを行うのが理性の脳であり、思いやり、やさしさ、道徳や倫理の脳である。理性の脳は、生まれたときには白いノートで、何も書かれていない。長い時間をかけて経験を積み、教育を受けて、このノートに思い出と教訓が書き込まれ、適切な判断力すなわち社会的常識を養っていく。生まれたての子供は本能でしか行動しないが、成長するにつれて他人の心が分かるようになり、本能すなわちわがままを抑えられるようになる。

人間は2つの脳を持っているが、本能の脳さえあれば生きて行ける。実際に、爬虫類や両生類などの脳の大部分は本能の脳であり、だからこれらの動物は恐怖と快楽だけで動かされる本能的な行動しかできない。理性の脳は、必要な場面で本能の脳を抑制する判断をする働きをし、欲求不満のストレスを生む脳でもある。人間の行動を観察すると、その判断や行動の大部分が情緒的あるいは前例に従った経験的なものであり、わずかな部分が論理的・理性的なものである。しかし、わずかであっても理性的な部分があることが人間の人間たる所以といえる。

このように、人間にとってどちらの脳も大事であるが、最も重要なことは二つの脳のバランスである。本能の脳は勝手に育ってゆくが、理性の脳は意識して育てる必要がある。理性の脳が未発達で、必要なときに本能を抑制できない人間は、反社会的な行動に走ってしまう。他方、理性の脳が強すぎて本能を抑えすぎると、ストレスが溜まって、うつになったり突然切れたりする。二つの脳のバランスのとりかたを学ぶことが、生きる力を養うことである。

脳は『論語』が好きだった 篠浦伸禎(脳外科医)著 致知出版社

脳のイメージ

・・・脳を上下に分けてみます。脳の中心下方には大脳辺縁系という動物的な本能、保身にかかわる脳があります。これを便宜上「動物脳」と呼びます。一方、大脳辺縁系の上方・外側には大脳新皮質という進化の過程で新しくできた脳があります。人間はこの大脳新皮質が他の動物に比べてより発達しているため、これを便宜上「人間脳」と呼びます。

脳内ではストレス(敵)がかかると側頭葉の内側にある扇桃体という神経細胞からノルアドレナリンという神経伝達物質が分泌されます。すると動物脳は、それに応じて攻撃・逃避行動をとります。逆に本能が満たされる(もしくは満たされることが予想される)と、動物脳にある神経細胞の塊である側坐核等からドーパミンという神経伝達物質が分泌され、動物脳は快感を得ます。

このようにして動物脳は本能的に自分の身を守る働きをしています。この動物脳は自分の身を第一に考えるという点で、人間学的にいうと「私」、『論語』でいえば「小人」的なあり方として表される行動にかかわります。

一方の人間脳は、組織を作ったり技術を進歩させたりすることにかかわります。動物脳に対して人間脳は外に目を向けて全体を考えるという点で、人間学的にいうと「公」、『論語』でいえば「大人」的な態度にかかわる脳ということができそうです。

人間脳は教育等によって、その機能を十全に発揮できるようになります。それが欠けると動物脳が脳の主役になりやすいため、教育によって人間脳を育て、動物脳をコントロールしなければなりません。すなわち自己修養によって欲望を抑える必要があるのです。

この欲望を抑えて公のために生きるというのは、人間学や宗教のテーマそのものです。動物脳と人間脳をいかにバランスよく使うかということは、よりよく生きるための方向性を決める使い方ともいえるわけです。