労働時間(労働基準法第32条)

使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間1)について40時間2)を超えて、労働させ6)てはならない7)
使用者は、1週間の各日について3)は、労働者に、休憩時間を除き1日4)について8時間5)を超えて、労働させてはならない。

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1) 1週間

「1週間」の字句は、本条をはじめ、第32条の二から第32条の五まで、第35条、第60条等各条項において用いられているが、これが単に「7日間」を意味するか又は「暦週」すなわち「日曜日から土曜日まで」を意味するかは問題の存するところである。第65条の産前産後の6週間が42日間を意味することは、同条の文理上明らかなところであるが、本条、第60条等における1週間の意味は、必ずしも明確ではない。しかし、これらの規定は、労働時間の規制に関し、1週間という期間を単位として規制したものと解すべきであり、本条における1週間についても、これを「日曜日から土曜日まで」と解することは、本条の文理上はもちろん、趣旨のうえからも困難といえよう。そうはいっても、1週間40時間とはいずれの7日間をとっても40時間でなくてはならないと解すべきものではなく、結局、「日曜から土曜まで」又は「月曜から日曜まで」等当該事業場における就業規則その他において定めるところによるものであろう。もっとも、就業規則等において別段の定めがない場合は、日曜から土曜までの暦週をいうものと解される(昭63・1・1 基発第1号・婦発第1号)。

2) 40時間

本条第1項は、週40時間労働制の原則を定めたものである。

3) 1週間の各日について

本条では、第1項で週の法定労働時間を規定し、第2項で1日の法定労働時間を規定している。労働時間規制のあり方として、1週単位の規制を基本として、1日の労働時間は1週の労働時間を各日に割り振る場合の上限として考えていくことが適当であるとの考え方によるものである。

4) 1日

他の条項におけると同様に、「1日」とは、原則として、午前零時から午後12時までのいわゆる暦日を意味する。本法は、最も重要な条件の一つである労働時間の基準について「1日」という単位を規定しながら、その定義について何も規定していないが、特別な規定がない以上、それは民法上の一般原則に従がって、午前零時から午後12時までの暦日の意であると解すべきである(民法第140条及び第141条参照)。
しかしながら、1勤務が2暦日にまたがる場合をどのように解するかという問題がある。例えば、16時間隔日勤務制において労働時間が午前零時をはさんで前後8時間ずつある場合、通常の日勤の時間外労働が翌日にまで及んだ場合、あるいは、昼夜連続操業をする事業における3交替制(例えば、7時~15時、15時~23時、23時~翌日7時)の3番方に従事する場合等において、この連続する勤務も、午前零時を期して2つの労働時間に分割すべきか否かである。
これについて、解釈例規は、「継続勤務が2暦日にわたる場合には、たとえ暦日を異にする場合でも1勤務として取り扱い、当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、当該日の『1日』の労働とする。」(昭63・1・1 基発第1号・婦発第1号)としている。これは、本条の趣旨が、長時間にわたって労働が継続すると労働者に種々の悪影響を及ぼすことからこれを排除しようとするものであるから、当然の解釈であろう。例えば、先にあげた午前零時をはさんで前後8時間ずつある16時間隔日勤務も、暦日原則でみれば1日8時間と解せなくもないが、その実質は前日から続く16時間労働であって、右の解釈例規によれば、本条第2項違反となり、第32条の二(1ヵ月単位の変形労働時間制)等を採用している場合に限り適法となる(同旨 福岡地裁小倉支部判決 昭38年(ワ)第111号 合同タクシー事件 昭42・3・24、水戸地裁判決 昭54年(ワ)第235号 茨交大洗タクシー事件 昭56・11・5)。

5) 8時間

昭和62年の改正によって、3.で説明したように、1週単位の規制が基本とされ、1日の労働時間は1週の労働時間を割り振る場合の上限として位置づけられるようになったが、使用者は、労働者に、1日について8時間を超えて労働させてはならないということに変わりはない。したがって、変形労働時間制等により労働させる場合を除き、1日8時間を超えて労働させるためには、36協定の締結・届出と割増賃金の支払が必要である。
例えば、1日7時間、週5日労働の事業場において、ある日に2時間延長して9時間労働したときには、1週間の労働時間としては40時間以内であるが、1日8時間を超えているので、1時間の時間外労働をしたことになる。

6) 労働させ

「労働」とは、一般的に、使用者の指揮監督のもとにあることをいい、必ずしも現実に精神又は肉体を活動させていることを要件とはせず、したがって、例えば、貨物扱いの事業場において、貨物の積込係が、貨物自動車の到着を待機して身体を休めている場合とか、運転手が2名乗り込んで交替で運転に当たる場合において運転しない者が助手席で休息し、又は仮眠しているときであってもそれは「労働」であり、その状態にある時間(これを一般に「手待時間」という。)は、労働時間である(昭33・10・11 基収第6286号)。
第34条の「休憩時間」と右の「手待時間」との相違は、使用者の指揮監督のもとにあるか否か、換言すれば、労働者の時間の自由利用が保障されているか否かにある(もっとも、休憩時間についても、後に触れるように、職場秩序の保持上、必要な限度で制限を加えることは許される。)といえよう。したがって、例えば、昼食休憩時間中来客当番をさせれば、その時間は、実際に来客がなくても労働時間である(昭23・4・7 基収第1196号、昭63・3・14 基発第150号、平11・3・31 基発第168号)。裁判例においても、「労基法34条所定の休憩時間とは、労働から離れることを保障されている時間をいうものであるところ、原告らと被告との間の雇用契約における右休憩時間の約定は、客が途切れた時などに適宜休憩してもよいというものにすぎず、現に客が来店した際には即時その業務に従事しなければならなかったことからすると、完全に労働から離れることを保障する旨の休憩時間について約定したものということができず、単に手待時間ともいうべき時間があることを休憩時間との名のもとに合意したにすぎないものというべきである。」(大阪地裁判決 昭55年(ワ)第5884号 すし処「杉」事件 昭56・3・24)とするものがある。
なお、使用者の指揮監督下にあるか否かは、明示的なものであることは必要でなく、現実に作業に従事している時間のほかに、作業前に行う準備や作業後の後始末、掃除等が使用者の明示又は黙示の指揮命令下に行われている限り、それも労働時間である。

7) 本条違反

この規定に違反して現実に1週40時間又は1日8時間を超えて労働させた場合は、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる(第119条第1号)。

 

出所
労働基準法 (労働法コンメンタール) 厚生労働省労働基準局編