就業規則の効力(労働基準法第93条)

就業規則1)で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約2)は、その部分については無効とする3)。この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による4)

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1)就業規則

本条にいう就業規則には、第九一条及び第九二条の場合における就業規則と同じく、常時一○人以上の労働者を使用する事業場の就業規則のみならず、常時一○人未満の労働者を使用する事業場の就業規則をも含むものと解される。

2)就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約

「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約」とは、就業規則に定められた労働時間より長い労働時間、就業規則で定められた賃金より低い賃金等就業規則に定められた基準を下回る労働条件を内容とする労働契約をいう。例えば、就業規則では、契約社員について一日七時間労働で九、○○○円となっているところを、個々の契約社員との労働契約では一日八時間労働で八、○○○円と決めるような場合を指す。
いいかえれば、本条は、就業規則で定める基準以上の労働条件を定める労働契約は、これを有効とする趣旨である(大津地裁決定 昭二五年(ヨ)第三一号 中川煉瓦製造所事件 昭二五・一○・一三、東京地裁判決 昭二八年(ワ)第五四四三号 昭和電工事件 昭二九・一・二一)。この点、労働組合法第一六条が「基準に違反する労働契約」と規定しているのとの差異に注意するべきであろう。労働組合法第一六条については、労働契約の内容が、労働協約の内容よりも労働者にとって有利であるかどうかということに直接関係がなく、たとえ労働契約の内容が労働協約の内容よりも労働者にとって有利であっても、前者のうち後者に抵触する部分は同条により無効であると解するのが妥当である。もちろん、労働協約がいわば最低基準を定めたものであるときは、その内容を上回る労働契約ないし就業規則の規定は当然有効であり、これらのいずれであるかは協約締結当事者の意思解釈によることになる。これに対し、就業規則の場合には、就業規則でどのような定め方をしていても、これより有利な個別の労働契約があればその方が優先することになるのである。右の効力上の差異は、労働協約の場合には、労働協約法制が労働者の団体意思をその個人意思に優越させ、もって労働条件について制度的に画一的な基準を設定しようとする意図のもとに設けられているのに対し、就業規則については、労働組合ないし労働者代表の意見聴取の手続はあるものの、最終的に使用者にその作成権限が委ねられていることに由来するものといえよう。

3)その部分については無効とする

「その部分については無効とする」とは、就業規則の基準に達しない部分のみを無効とする趣旨であって、労働契約中のその他の部分は有効であるという意味である。

4)無効となった部分は、就業規則で定める基準による

「無効となった部分は、就業規則で定める基準による」とは、労働契約の無効となった部分については、就業規則の規定に従って、労使の間の権利義務関係が定まるという意味である。

出所
労働基準法 (労働法コンメンタール) 厚生労働省労働基準局編