創業間もない会社の人事制度

ここからは創業間もない会社が自力で人事制度を作るために必要となる良書について触れていきます。

「人事の超プロが明かす評価基準」  西尾太(著) 三笠書房(発行所)

この本の良書たるゆえん(所以)は、
「人事評価の土台は、会社の規模などにかかわらず共通している」、
著者がここに気づかれたところにあります。このことに関して、著者は次のように言っています。

人事評価の土台は普遍的であり、汎用的なものです。業界や職種、会社の規模にかかわらず、会社が社員に求めている評価基準の本質は共通しています。ビジネスで求められる成果を出すための「欠かせない行動」のことを、人事分野では「コンピテンシー」といいます。このコンピテンシーは、あらゆる企業に共通しているとされる評価基準(絶対基準)になり得るのです。
本章では、この普遍的で汎用的な絶対基準「45のコンピテンシー」・・・をすべて紹介します。
この評価基準は、社員2000名の上場企業から社員3名のベンチャー企業まで、今、元気に成長している大小さまざまな会社で実際に導入・運用されているものです。
・・・職位クラスのそれぞれに求められる行動や基本的なスキルは何か、OKな行動とNGな行動、獲得すべき行動は何か。
会社が期待する人材像を明らかにすることで、各自が今やるべきこと、今後の目標が明確になります。
・・・
まずは、現在の自分のクラスに求められているコンピテンシーは何か、そして、今後必要となるのはどんな行動かを確認してください。・・・

上記の普遍的で汎用的な絶対基準「45のコンピテンシー」(普遍的な評価基準)は、会社にとって有益であるだけでなく、社員にとっても大変有益です。そのことを、著者は次のように言っています。

「気づき」を得る機会さえあれば、人は自分でも信じられないほど成長したり、自覚していなかった未知なる能力を発揮したりできるものです。
今、自分に求められているものを「知っているか」「知らないか」。
それが人生の明暗を分けます。
自分に必要なものを知っていれば、適切な学習と努力によって、さまざまな影響力を獲得できます。知らなければ、学習のしようもなく、迷走していくだけ。
そうはならないように「これだけは必要!」という普遍的な評価基準を理解し、実践することが重要です。
そして、その基準がまさに「45のコンピテンシー」なのです。
多くの企業が社員に求めていること=「評価基準」は、本当にどんな会社でもほとんど変わりません。たとえ「見える化」されていなくても、潜在的にある基準は一緒です。
第4章を参考に、多くの「気づき」を得る機会を増やしていってください。

この普遍的な評価基準は、創業間もない会社であってもわかりやすく、すぐに実行できる内容として紹介されています。

他にも、
・“「5段階評価で3」より「A=ありがとう」が人を大きく育てる”、という記載がありますが、ここも、大変感心させられます。
・普遍的な評価基準のひとつに、「理念浸透」があります。この理念について知りたい事業主さまは、弊所サイトの“経営理念”のページ、“経営理念の事例”のページが役立つと思います。ぜひお役立てください。

人事制度は、「評価制度」、「等級制度」、「賃金制度」の3つで構成されます。これらがそれぞれ関連しあって、一つの人事制度になります。
この本は、「評価制度」や「等級制度」の骨格にあたります。この骨格を生かし肉付けすることで、人事制度となります。この肉付けにあたるのが、次の「A4一枚賃金制度」という本になります。

「A4一枚賃金制度」 榎本あつし(著) アニモ出版(発行所)

創業間もない会社(人事は社長などが兼任でやっている会社など)でも人事制度が導入できることをうたった本です。会社といろいろ苦労して作り上げてきたんだろうなぁ、ということが伝わってくる良書です。

この本は、人事制度が「等級制度」、「賃金制度」、「評価制度」の3つで構成されることから始まり、この「等級制度」、「賃金制度」、「評価制度」について、とてもわかりやすく紹介されています。
そして、給与、賞与、昇降格へ反映させる方法もわかりやすく紹介されています。

賃金を決めるにあたっては、もう一歩踏み込んだものが必要と思いましたので、それを作成しました。弊所サイトの“賃金の参考”のページをご覧ください。
さらに踏み込んで統計データを調べたい場合は、ネット検索、もしくは図書館で書籍のコピー(この書籍は持出禁止の可能性が高いですのでコピー)になると思います。

そして次に、この本の核心部分を紹介していきたいと思います。著者の言葉を借りれば、

人事制度で大切なのは、一にも二にも「運用」です。いかに使っていくか・・・。
いかに、日々活用しているか、・・・、自身の成長課題を意識してふだんから取り組めているか、それについて上司と部下でどれだけコミュニケーションが取れているか
・・・
そこには、手間も苦労もかかりますが、これを惜しんではいけません。ここにどれだけ力を入れられるかに、評価制度の成功のカギがあります。

この評価制度の運用については、具体的な取り組み例も紹介されています。

この良書2冊につけ加えたいこと

評価者の評価スキルの向上が大切

・評価者がする評価判定について未熟な部分があると、未熟な部分が目立って、社員に不信感を持たれる可能性があります。
・評価判定の説明が中途半端ですと、社員の不満を増幅させる可能性があります。
 ↓
こうならないためには、定期的な評価者研修などによって評価者の評価スキル(※1)を向上することが大切になってきます。

この評価スキル向上というのは、簡単ではありません。
従って、評価スキルが向上するまでは、「育成のための面接指導は行うが、評価判定の結果は公開しない」というやり方も一つです。
但し、大きな処遇格差をつけたい場合は、評価判定の結果を公開しないと混乱が生じると言われていますので、評価スキルが早く向上(※2)するよう頑張るしかないと思います。

※1評価スキルの構成
評価判定、評価判定にいたる根拠(本人の業績や能力・頑張り・職場の実情など)の説明、課題抽出、モチベーションアップにつながるコメントなどから構成されます。

※2評価スキルが早く向上
いくら早くといっても、昇降給、賞与、昇降格の基準を見極めるためのトライアル期間は最低限確保する必要があります。これについては、既に紹介した良書「A4一枚賃金制度」でわかりやすく紹介されています。

賃金表の額は従業員との約束

人事制度を導入するということは、賃金表を従業員に公開することになります。即ち、賃金表の額を従業員に支払うことを約束することになります。
しかしながら、約束はしたものの、経済・社会情勢の悪化などにより、賃金表の額を支払えないことも生じてきます。こうしたときは、一方的に支払わないのではなく、従業員に理由を丁寧に説明し合意を得るようにしてください。
この対応がうまくいかないと、従業員より、「労働条件の不利益変更だ!」と言われ、場合によっては訴訟にまで発展してしまうことがありますので注意してください。
(賃金表などを作成していなくても、過去の実績を元に、「労働条件の不利益変更」トラブルに発展することはありえますが、やはり賃金表という書面があると、トラブルに発展する可能性は増える方向になってしまいます)。

歴史のある会社、規模の大きい会社の人事制度

人事制度を導入(構築・運用)すると、さまざまな問題や混乱が生じ、社内がギクシャクしたりすることがあります。簡単には解決せず、苦労することもあります。
歴史のある会社、規模の大きい会社になってくると、こうした問題や混乱は、多くなり、かつ深くなっていくでしょう。会社の体質改善が必要になってくることもあるでしょう。こうしたときの対応を誤ると、労使間で大きな溝ができたり、労使間で大きなトラブルに発展したり、最悪経営に大きな影響を与えたりします。
こうしたリスクを考えると、歴史のある会社や規模の大きい会社の制度導入は、かなり難易度が上がりますので、少なくとも数十万の費用が発生しますが、人事制度の導入を専門にしている実績(ノウハウ、経験など)豊富なコンサルに委託するのが好ましいといえます。