道をひらく 松下幸之助 PHP研究所

□自分の仕事
どんな仕事でも、それが世の中に必要なればこそ成り立つので、世の中の人びとが求めているのでなければ、その仕事は成り立つものではない。・・・
だから、自分の仕事は、自分がやっている自分の仕事だと思うのはとんでもないことで、ほんとうは世の中にやらせてもらっている世の中の仕事なのである。ここに仕事の意義がある。
・・・
仕事が伸びるか伸びないかは、世の中がきめてくれる。世の中の求めのままに、自然に自分の仕事を伸ばしてゆけばよい。
大切なことは、世の中にやらせてもらっているこの仕事を、誠実に謙虚に、そして熱心にやることである。世の中の求めに、精いっぱいこたえることである。

□商売の尊さ
・・・商売というものは、暮らしを高め、日々をゆたかに便利にするために、世間の人が求めているものを、精いっぱいのサービスをこめて提供してゆくのである。

□真剣勝負
・・・真剣になるかならないか、その度合によってその人の人生はきまる。

□くふうする生活
とにかく考えてみること、くふうしてみること、そしてやってみること。・・・
おたがいにもう一度考え直そう。きのうと同じことをきょうは繰り返すまい。どんな小さなことでもいい。どんなわずかなことでもいい。きのうと同じことをきょうは繰り返すまい。多くの人びとの、このわずかなくふうの累積が、大きな繁栄を生み出すのである。

□働き方のくふう
人より一時間、よけいに働くことは尊い。努力である。勤勉である。だが、今までよりも一時間少なく働いて、今まで以上の成果をあげることも、また尊い。そこに人間の働き方の進歩があるのではなかろうか。
それは創意がなくてはできない。くふうがなくてはできない。働くことは尊いが、その働きにくふうがほしいのである。創意がほしいのである。額に汗することを称えるのもいいが、額に汗のない涼しい姿も称えるべきであろう。怠けろというのではない。楽をするくふうをしろというのである。楽々と働いて、なおすばらしい成果があげられる働き方を、おたがいにもっとくふうしたいというのである。そこから社会の繁栄も生まれてくるであろう。

□しかも早く
・・・時は金なりの時代である。一刻一秒が尊いのである。だから念入りな心くばりがあって、しかもそれが今までよりもさらに早くできるというのでなければ、ほんとうに事を成したとはいえないし、またほんとうに人に喜ばれもしないのである。
早いけれども雑だというのもいけないし、ていねいだがおそいというのもいけない。念入りに、しかも早くというのが、今日の名人芸なのである。

□わけ入れば
長い人類の歴史は、・・・おおむね進歩発展の一路を辿ってきた。今後もまたかぎりなく発展してゆくにちがいない。人間は本当は偉大なものなのである。
われわれもまた、この人間の歴史の一コマをになっている。
だからこそ、どんなことにも、もうこれでいいのだ、もうこれでおしまいだ、などと安易に考えないで、わけ入れば思わぬ道もあるという思いで、日々ひたすらな歩みをすすめてゆきたいと思うのである。

□眼前の小利
眼前の小利にとらわれるな、とは昔からのことわざであるが、小利にとらわれては、結局は損をする。その損も、単に自分だけで終わるならまだ罪は軽いが、今日の世の中のように、人と人と、仕事と仕事とがたがいに密接につながっているときには、一人の損がみんなの損となり、その心得ちがいは大へんな結果を生む。
こんなことは、いまさら事新しくいう必要もないのだが、この世の中、やっぱり一部の人のちょっとした心得ちがいからいろいろの問題がひき起こされていることを思えば、眼前の小利にとらわれるなと、何度も何度もくりかえしていいたくもなってくる。

  • 参考(神道のこころ 葉室頼昭 春秋社)
    宇宙に存在しないものは人間はつくれないのです。そんななかで人間は自分で生きていると考えていることが現代の最大の間違いです。人間は生かされている、何事もさせていただいているというのが真実です。