労働条件の明示(労働基準法第15条)
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示1)しなければならない7)。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項3)については、厚生労働省令で定める方法2)により明示しなければならない7)。
前項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない7)。
解説
1) 労働条件を明示
(イ)明示すべき時期
明示すべき時期は、労働契約の締結の際である。労働契約の締結をする際であるから、労働者の募集時点においては必要はない(ただし、職業安定法上の明示義務がある。)が、契約期間満了後、契約を更新する場合も含まれる。
2) 厚生労働省令で定める方法
施行規則第5条第3項は、厚生労働省令で定める方法として、「労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。」と規定している。
なお、書面で明示すべき労働条件については、当該労働者に適用する部分を明確にして就業規則を労働契約の締結の際に交付することとしても差し支えない(平11・1・29 基発第45号)。
3) 賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項
施行規則第5条2項により、労働契約の締結時に労働者に対して書面を交付すべき事項が次のように定められている。
① 労働契約の期間に関する事項
② 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
③ 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
④ 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金、賞与その他これらに準ずる賃金(a. 1ヵ月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当、b. 1ヵ月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当、c. 1ヶ月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給又は能率手当)を除く。この項において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期に関する事項
⑤ 退職に関する事項
これらの事項を労働者に交付する書面に記載する際の留意点は、次のとおりである。
ⅰ. 前記①については、期間の定めのある労働契約の場合はその期間、期間の定めのない労働契約の場合はその旨を記載する必要がある(平11・1・29 基発第45号)。
ⅱ. 前記②については、雇入れ直後の就業の場所及び従事すべき業務を明示すれば足りるものであるが、将来の就業場所や従事させる業務を併せ網羅的に明示することは差し支えない(前掲通達)。
ⅲ. 前記③については、当該労働者に適用される労働時間等に関する具体的な条件を明示しなければならない。
なお、当該明示すべき事項の内容が膨大なものとなる場合においては、労働者の利便性をも考慮し、所定労働時間を超える労働の有無以外の事項については、勤務の種類ごとの始業及び終業の時刻、休日等に関する考え方を示した上、当該労働者に適用される就業規則上の関係条項名を網羅的に示すことで足りる(前掲通達)。
ⅳ. 前記④については、就業規則の規定と併せ、賃金に関する事項が当該労働者について確定し得るものであればよく、例えば、労働者の採用時に交付される辞令等であって、就業規則等に規定されている賃金等級が表示されたものでも差し支えないが、この場合、その就業規則等を労働者に周知させる措置が必要であることはいうまでもない(昭51・9・28 基発第690号)。
ⅴ. 前記⑤については、退職の事由及び手続、解雇の事由等を明示しなければならないが、当該明示すべき事項の内容が膨大なものとなる場合においては、労働者の利便性をも考慮し、当該労働者に適用される就業規則上の関係条項名を網羅的に示すことで足りるものである(平11・1・29 基発第45号)。
7) 本条違反
使用者が本条第1項に違反して明示すべき範囲の労働条件を明示しない場合や厚生労働省令で定める事項について定められた方法で明示しない場合には、30万円以下の罰金に処せられる(第120条第1号)。労働条件が明示されなくても、当該労働者の労働条件は、現実には労働協約又は就業規則の定めるところによって律せられるわけであって、労働契約自体は有効に成立するのであるが、労働条件を明示しなかったという使用者の不作為が処罰の対象とされるのである。
また、使用者が本条第3項に違反して労働者の帰郷旅費を負担しない場合も、同様に処罰される。
出所
労働基準法 (労働法コンメンタール) 厚生労働省労働基準局編