就業規則の作成及び届出の義務(労働基準法第89条)

常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項6)について就業規則を作成3)し、行政官庁に届け出4)なければならない24)。次に掲げる事項を変更した場合5)においても、同様とする。

一 始業及び終業の時刻7)、休憩時間8)、休日9)、休暇10)並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項11)
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法12)、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項13)
三 退職に関する事項14)
三のニ 退職手当の定めをする場合15)においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
四 臨時の賃金等17)(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
五 労働者に食費、作業用品その他の負担18)をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
六 安全及び衛生に関する定め19)をする場合においては、これに関する事項
七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定め21)をする場合においては、これに関する事項
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定め23)をする場合においては、これに関する事項

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3) 作成

「作成」とは、法に定める必要事項をすべて含んだものを作成することを意味し、必要記載事項を欠いている場合には、それが後に述べる絶対的必要記載事項である場合はもちろんのこと、相対的必要記載事項である場合であっても「作成」の義務を果たしたとはいえず、やはり処罰の対象たり得るものと解される(昭25・2・20 基収第276号)。
当該事業場の労働者の一部について、他の労働者と異なる労働条件を定める場合には、当該一部の労働者についてのみ適用される別個の就業規則を作成することは差し支えない。例えば、パートタイム労働者について別個の就業規則を作成するような場合である。この場合には、就業規則の本則において当該別個の就業規則の対象となる労働者に係る適用除外規定又は委任規定を設けることが望ましい(昭63・3・14 基発第150号・婦発第47号)。
また、別個の就業規則を作成する場合には、当該2以上の規則を合わせたものが本条の就業規則となるのであって、それぞれが単独で同条の就業規則となるものではない(前掲通達)。したがって、第90条の意見聴取等については、それらを合わせて一体となった就業規則に対して行う必要がある。
このように、一部の労働者に対して別個の就業規則を作成することは差し支えないが、いずれにせよ就業規則は当該事業場の全労働者について作成する必要があり、本工については作成しているが臨時工やパートタイム労働者については作成していないという場合は、本条違反となる。
なお、本条所定の事項を個々の労働契約書に網羅して記載してあっても、使用者は、本条に規定する「作成」の義務を免れるものではない。

4) 行政官庁に届け出

本条に規定する届出は、施行規則第49条第1項の規定により、常時10人以上の労働者を使用するに至った後、遅滞なく、所轄労働基準監督署長に対してしなければならない。

5) 次に掲げる事項を変更した場合

就業規則の作成に当たっては、当然その時点における当該事業場における労働条件の実態に即したものでなければならないが、その後、就業規則に定めた事項に変更があった場合には、それに合わせて就業規則を変更しなければならない。例えば、当初は始業及び終業の時刻が午前8時から午後5時までであったものが、それぞれ30分繰り下げられて午前8時半から午後5時半までとなったのであれば、その時点で就業規則を変更しなければならない。労働条件の実態が変更されたにもかかわらず、就業規則を変更しないで放置した場合には、本条違反となる。したがって、就業規則は、一度作成すればこと足れりというのではなく、労働条件の変化に合わせて逐次見直しをする必要がある。

6) 次に掲げる事項

第一号から第十号までに掲げられている事項のうち、第一号から第三号までは、いかなる場合であっても必ず記載しなければならないいわゆる絶対的必要記載事項であり、第三号の二以下は当該事項について「定めをする場合においては」必ず記載しなければならないとするいわゆる相対的必要記載事項である。このほか、使用者において任意に記載し得る任意記載事項を考えることができる。例えば、就業規則の制定趣旨ないし根本精神を宣言した規定、就業規則の解釈及び適用に関する規定等がこれである。

7) 始業及び終業の時刻

「始業及び終業の時刻」とは、当該事業場における所定労働時間の開始時刻と終了時刻とをいうものであり、これによって、次に述べる休憩時間に関する規定と相まって、所定労働時間の長さと位置を明確にしようとするものである。したがって、例えば労働時間については「1日8時間とする」というような規定だけでは本条第一号の要件を満たさないものである。
始業及び終業の時刻の繰上げ、繰下げが行われる場合には、その旨を就業規則に記載しておかなければならない。

8) 休憩時間

休憩時間については、休憩時間の長さ、休憩時間の与え方(一斉に与えるか、交替で与えるか等)等について具体的に規定しなければならない。休憩時間の繰上げ、繰下げが行われる場合には、その旨を記載しておかなければならない。

9) 休日

休日の定め方は、休日の日数、与え方(1週1回、又は1週の特定日例えば日曜日等)のほか、休日の振替、代休等の制度がある場合はそれらの制度について具体的に記載しなければならない。

10) 休暇

休暇には、本法上与えることを義務づけられている年次有給休暇、産前産後の休暇及び生理日の休暇のほか、育児・介護休業法に基づく育児休業及び介護休業、任意に与えることとしている諸休暇(夏季、年末年始休暇、教育訓練休暇、慶弔休暇等)も含まれる。それらの制度を設けている場合には必ず就業規則で具体的に記載しなければならない。

11) 就業時転換に関する事項

「就業時転換に関する事項」とは、労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合の交替期日あるいは交替順序等に関する事項をいう。

12) 賃金・・・の決定、計算及び支払の方法

「賃金の決定、計算及び支払の方法」とは、賃金ベース又は賃金額そのもののことではなく、学歴、職歴、年齢等の賃金決定の要素あるいは賃金体系(職階制が実施されていて賃金決定に結びついている場合には、職階制もこれに該当するであろう。)等賃金の決定及び計算の方法並びに月給制、日給制、出来高払制等の支払の方法をいう。
割増賃金について特別の割増率を定めている場合にはその割増率を、また、賃金の端数計算処理を行っている場合にはその方法を記載しておかなければならない。

13) 昇給に関する事項

「昇給に関する事項」とは、昇給期間、昇給率その他昇給の条件等をいう。

14) 退職に関する事項

「退職」とは、日常用語としては期間満了による自然退職や労働者の意思に基づく任意退職等の場合を指し、使用者の意思に基づく労働契約の終了である解雇を含まないのであるが、ここにいう退職は、解雇を含め労働契約が終了するすべての場合を指すと解すべきである。したがって、「退職に関する事項」とは、任意退職、解雇、定年制、契約期間の満了による退職等労働者がその身分を失うすべての場合に関する事項をいう。

15) 定めをする場合

「定めをする場合」とは、第三号の二以下の事項について、明文の規定を設ける場合はもちろん、不文の慣行又は内規として実施されている場合をも含む。このような場合には、本条の規定により、当該事項を就業規則に記載しなければならない。したがって、第三号のニ以下の事項について定めがある場合には、その取扱いは第一号から第三号までの絶対的必要記載事項と異なるところがないわけである。

17) 臨時の賃金等

臨時の賃金等とは、第24条第2項ただし書で定める臨時に支払われる賃金、賞与及び施行規則第8条各号に掲げる賃金のことである。
これらの賃金については、法律上支給が強制されているものではないが、もしその制度があれば、その支給条件、支給額の計算方法、支払期日等を明確に就業規則に記載しておかなければならない。
家族手当、通勤手当等の手当で法律上毎月の支払が強制されている賃金の一部を構成するものについては、第二号の「賃金」として「賃金の決定の方法に関する事項」等について記載しなければならない。
賞与については、その性格上支給額について規定することは困難であろうが、その支給が制度として確立しているものであれば、支給条件、支給時期等については定められるべきである。

18) その他の負担

「その他の負担」とは、社宅費、共済組合等労働契約によって労働者に経済的負担を課する場合をいう。

19) 安全及び衛生に関する定め

「安全及び衛生に関する事項」としては、労働安全衛生法、同法施行令、労働安全衛生規則等に規定されている事項のうち当該事業場において特に必要な事項の細目、これらの法令に規定されていない事項であっても当該事業場の安全衛生上必要なもの等が考えられる。

21) 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定め

災害補償については、本法に規定する災害補償に関する細目的規定、本法又は労災保険法を上回る補償を行う場合にはこれに関する規定等が考えられる。
業務外の傷病扶助については、当該事業場が健康保険法又は厚生年金保険法の適用を受ける場合にはこれらの法律で定める給付等以外の又はこれらを補充する扶助に関する規定、これらの法律の適用を受けない場合には使用者が自主的に行う扶助に関する規定等が考えられる。

23) 当該事業場の労働者のすべてに適用される定め

当該事業場の労働者のすべてに適用される定めには、現実に当該事業場の労働者のすべてに適用されている事項のほか、一定の範囲の労働者のみに適用される事項ではあるが、労働者のすべてがその適用を受ける可能性があるものも含まれると解すべきであろう。したがって、「旅費に関する一般的規定をつくる場合には、労働基準法第89条第十号により就業規則の中に規定しなければならない。」(昭25・1・20 基収第3751号、平11・3・31 基発第168号)し、休職に関する事項、財産形成制度等の福利厚生に関する事項等も、労働者のすべてに適用される事項として就業規則のなかに規定されるべきものと解される。ただ、労働者の労働条件に何ら関係のない、例えば、運動競技選手への制服貸与や楽団員への楽器貸与等のごとき事項は、就業規則本来の目的からみて本号には含まれないと解すべきであろう。社宅の貸与規程のごときも、社宅が鉱山等のように従業員のすべてに提供されているような場合は別として、一部高級社員のみに貸与されるような場合は、通常、労働者のすべてに適用される事項とは解されないであろう。

24) 本条違反

常時10人以上の労働者を使用する使用者が本条に違反して本条の就業規則を作成せず、又は作成しても届出をしないと30万円以下の罰金に処せられる。実態が変わったにもかかわらず就業規則を変更せず、又は変更しても届出をしない場合についても同様である(第120条第1号)。

出所
労働基準法 (労働法コンメンタール) 厚生労働省労働基準局編